第一部『嵌合位からみた犬歯』は、主に少数歯欠損のステージの症例で組み立てられ、まずは『弱体化した犬歯の回復』というテーマで2症例が発表された。犬歯を喪失すると咬合や補綴設計という点で難題を抱えることになるが、2症例とも状態が悪化した犬歯を見事に回復させ、ガイドの機能を再獲得させていた。1歯の保存にこだわる姿勢は基本ゼミで教わった最たるものの1つだが、中でもそれは『犬歯の保存』という局面において、特別大きな意義をもつように思われた。
次に行われたテーマは、『機能していない犬歯の活用』だ。歯列不正などから犬歯がガイドの機能を果たしていないようなケースがあるとして、その全てに臼歯部でトラブルが起こるわけではないだろうが、臼歯部が欠損したり弱体化しているケースでは犬歯が機能していなことが多いのではないだろうか。ここで発表された3症例のうちの2つは、犬歯機能不全に起因する臼歯部トラブル症例と考えられた。因果関係さえはっきりすれば、そこからの最大の目標は、犬歯の咬合接触とガイド機能の獲得となるが、その手段は補綴的あるいは矯正的な介入のどちらかに限られる。術者の技量も強く問われる局面だろう。残る1症例は10代の犬歯唇側転位症例であった。矯正治療により獲得された個性正常咬合は、将来欠損歯列にはきっとならないだろうと思わせるのには十分で、極めて予防的な処置であることを再確認させられた。
ここまでは犬歯活用ケースだったが、3つめのテーマは『犬歯の嵌合位を守る』として、犬歯温存ケースを4症例呈示していただいた。犬歯への介入がよぎる局面において、パーシャルデンチャー・移植・インプラントを用いることにより犬歯非切削とし、既存の咬合接触やガイドを保守するということに主眼を置いた発表がなされた。犬歯を積極的に削りたいと考えるような歯科医はもくあみ会にはいないが、一方でそれを錦の御旗にして即インプラント埋入が許されるような会でもない。線引きは非常に難しく、決断は術者にしかできないことだが、天秤の傾きは厳密に見極めねばならないということを改めて感じさせられた。
0 件のコメント:
コメントを投稿