2015年3月23日月曜日

2015年もくあみ会2

第一部『嵌合位からみた犬歯』は、主に少数歯欠損のステージの症例で組み立てられ、まずは『弱体化した犬歯の回復』というテーマで2症例が発表された。犬歯を喪失すると咬合や補綴設計という点で難題を抱えることになるが、2症例とも状態が悪化した犬歯を見事に回復させ、ガイドの機能を再獲得させていた。1歯の保存にこだわる姿勢は基本ゼミで教わった最たるものの1つだが、中でもそれは『犬歯の保存』という局面において、特別大きな意義をもつように思われた。

次に行われたテーマは、『機能していない犬歯の活用』だ。歯列不正などから犬歯がガイドの機能を果たしていないようなケースがあるとして、その全てに臼歯部でトラブルが起こるわけではないだろうが、臼歯部が欠損したり弱体化しているケースでは犬歯が機能していなことが多いのではないだろうか。ここで発表された3症例のうちの2つは、犬歯機能不全に起因する臼歯部トラブル症例と考えられた。因果関係さえはっきりすれば、そこからの最大の目標は、犬歯の咬合接触とガイド機能の獲得となるが、その手段は補綴的あるいは矯正的な介入のどちらかに限られる。術者の技量も強く問われる局面だろう。残る1症例は10代の犬歯唇側転位症例であった。矯正治療により獲得された個性正常咬合は、将来欠損歯列にはきっとならないだろうと思わせるのには十分で、極めて予防的な処置であることを再確認させられた。

ここまでは犬歯活用ケースだったが、3つめのテーマは『犬歯の嵌合位を守る』として、犬歯温存ケースを4症例呈示していただいた。犬歯への介入がよぎる局面において、パーシャルデンチャー・移植・インプラントを用いることにより犬歯非切削とし、既存の咬合接触やガイドを保守するということに主眼を置いた発表がなされた。犬歯を積極的に削りたいと考えるような歯科医はもくあみ会にはいないが、一方でそれを錦の御旗にして即インプラント埋入が許されるような会でもない。線引きは非常に難しく、決断は術者にしかできないことだが、天秤の傾きは厳密に見極めねばならないということを改めて感じさせられた。

2015年3月9日月曜日

2015年もくあみ会1

 臨床基本ゼミのOB会である『もくあみ会』の実行委員として全体会に携わるようになってから、3度目の幕が閉じた。全体会は、実行委員2人体制で企画立案から当日の司会までを担当するが、振り返ってみれば、この3年間は2011年に金子先生が提唱された『KA367』の後追いをしてきたように思う。2012年は『欠損歯列における犬歯の役割』、2013年『左右的残存歯偏在の治療方針』と銘打ち、犬歯の重要性を象徴するようなケースをベースとしてディスカッションを行ってきた。その中で、『犬歯は欠損歯列において頼れる存在』であることが明確となってきたが、一方で犬歯を喪失したケースでは悲劇的な状況に追い込まれることが少なくないということもわかってきた。中には、医原性に犬歯を喪失したことで、左右的すれ違い咬合へ移行しつつあるケースもあった。そんなことを見るにつけ、いくらスーパースターの犬歯といえども無敵ではなく、切り札として慎重な取り扱いをしなければならないという思いが強くなってきた。
折しも、今年は全員参加型にしたいという考えもあったことから、『頼りたい犬歯・大切にしたい犬歯』という相反する命題に対して、『犬歯を活用したケース』『犬歯を温存したケース』という条件で、会員から広くケースを募ることとした。

 もくあみ会ほど犬歯に焦点を当ててきた会はない。その思いの通り、半数の会員から犬歯を中心とした物語を提示していただいた。 条件を絞らないという狙いだったが、集合を総覧していくと、幾つかの共通した思惑の元にそれぞれのケースは進んでいるということがみえてきた。局面ごとに犬歯に期待する役割が違う。こんなところからも犬歯の歯種特異性というものが強く認識される結果となった。共通するケースを細分化したのちに、2つに大別し、全体会は二部構成とすることとした。第一部は『嵌合位からみた犬歯』、第二部は『欠損歯列からみた犬歯』である。