2015年10月30日金曜日

名古屋で考えたこと

 しんせん組10周年記念発表会におけるM先生の発表を聞いていて、勉強になったことや感じたことがいくつかあったため、備忘録的に留めておきたい。










『全体がみえるフォーマット』
  事前抄録に、KA367+パノラマ+5枚の口腔内写真というフォーマットが活用されていた(画像)。欠損歯列を評価する方法はいくつかあるが、歯数や咬合支持数という尺度では、この症例の難しさは見えてこない。KA367の歯式による小文字の効果がようやくその気配が感じさせるが、事を明確にしているのは数字ではなく、やはり5枚の現実だ。
 フォーマットから、この症例は『咬合関係による難症例』であるということが一目でわかる。左側の大臼歯支持は保全されているものの顎位低下が疑われるが、それは右上の補綴が外れているからなのか、あるいは咬耗によるものなのだろうか。欠損進行による顎位低下と、咬耗による顎位低下は分けて考えなければならなさそうだ。さらにAngleII級であることや、クレンチングがありそうなことも難しさに拍車をかけている。 

『Keytooth』 
 プレゼンでは右上3をKeytoothと捉え、その保存に努められていた。犬歯を失うと補綴設計は複雑化するし、そのダメージは全体にとって大きなものとなるため、この歯を残す意義は極めて大きい。語る会でも拝見したケースだったが、保存した犬歯を軸に見事な咬合再建がなされており、その後の経過も良好なようだった。
  Keytoothは局面によって果たす役割が変わってくる。あえて定義するなら『症例の流れを左右する歯』といってよさそうだ。一度小文字化(弱体化)した歯が保存できたとして、それがKeytoothだった場合、大文字だったときのように扱って良いのかどうかは一考の余地がある。Cr-Brで対応されていたケースだが、小文字は大文字には戻らないと捉え、少々過保護に設計に組み込んでいくとするならば、可撤性への道をこの段階から見据えていくというのも一つかもしれないと感じた。
  もう一つ。Keytoothは常にあるものなのかどうか。先ほどの定義からすると、流れが変えられないケースはkeytoothが存在しないということになる。そのようなケースはインプラントでKeytoothを作るか、流れに逆らわない方向を目指すのかということになろう。犬歯・大臼歯・智歯は代表的なKeytoothだが、単に歯名から決めるのではなく、流れの中からKeytoothの有無を見る目も養いたい。 

『年齢』
  来年度もくあみ会全体会で予定しているテーマ『固定性・可撤性』のことばかり頭にあるせいもあるだろう。大御所O先生が発表会の最後でコメントを求められ、「15年経つとトラブルが出てくる・・・」とおっしゃっていたこともある。患者が何歳から軟着陸を考えなければいけないのだろうか。Cr-Brのみでいけるケースを逸脱した時が一つの潮目のようだが、超一流の歯科医が処置して15年なら、一般の歯科医ならもっと短期間で・・・と思うと、あんまり攻めたくない・・・という思いが強くなる。術者の年齢がまだ若いうちに安穏なことばかり考えていても良くないのかもしれないが。。

 『人の患者・自分の患者』
  全体会などで症例のとりまとめ役をしていてわかってきたことだが、人の症例をみても自分とその患者との関わりがないため、問題点の抽出や難易度の評価、補綴設計などの見通しも遠慮なしに立てられる。一方、自分の患者のこととなると、顔・性格・背景・希望などが浮かんできて途端に眼鏡が曇り始め、簡単に固定性・可撤性の采配はつけられない。術者にしかわからない患者との関係性が、臨床やケースプレゼンテーションを難しくも面白くもしている。

2015年10月22日木曜日

しんせん組10周年記念発表会

 以前ブログに書いたシルヴィ・ギエム以来、2回目の名古屋上陸を果たしました。往路は後輩が抑えてくれたFDAという航空会社の飛行機で、片道9400円と破格でした。空港までの移動や、事前チェックインなどの待ち時間などを含めても、所要時間は2時間ぐらいだったでしょうか。機内でも後輩のうるさいプレゼンテーションを聞いている間にもう着陸態勢。新鮮さもあってか、驚くほど快適なスタートとなりました。空港で早速ビールを2杯完飲して乗り込んだ先輩は、うしろの席で快眠されていたようです。

 さて今回のお目当ては、中部地方の雄『しんせん組』10周年記念発表会です。しんせん組の先生方とは語る会やもくあみ会で毎年お会いしているせいもあり、個人的には特別親近感をもっています。『天然歯保存への取り組み』と題打たれた発表会では、前夜祭のお酒も残っているであろう中、会員全員が渾身の発表をされていました。

  こういった会を企画するときに一番に考えなければいけないのがテーマでしょうが、それを決めることは中々難しいことです。一つの話題に絞って深く掘り下げようといったアプローチを試みた場合、ケースセレクションや術者の年齢、技量、考え方などに振り回され、すぐさま安定飛行とはいきません。かといって、広く浅くやっても、ただケースプレを羅列しただけのまとまりに欠けたものになってしまいます。

 今回のしんせん組発表会の成功は、内容はペリオ・Cr-Br・エンド・欠損歯列・外傷と幅広いながらも、それら全てに『天然歯保存への取り組み』という命題が根底に流れており、スタディグループとしての姿勢というものを色濃く打ち出したものになっていたからでしょう。会員全員が臨床基本ゼミから得たものを大切にしていることが、会場のあちらこちらから聞こえてきた「違和感が全くなかった」という言葉に繋がっていたのだろうと思います。

  最後に長谷川先生が述べていた「20周年にはスタディグループとしての知見を示せるように・・・」という言葉からは、違和感なしでは留まらず前進していこうという強い意志を感じました。一枚岩のしんせん組はきっとこれからもバランス良く飛行し続け、新天地を目指していくのでしょう。

2015年10月7日水曜日

産みの苦しみ

 現在2つの原稿を抱えており、1つはようやく最終校正を迎えました。スタディグループ紹介の記事と、自身のインタビュー及び2ページのケースプレといった大した内容ではないものの、タイトル、文章、まとめといった基本構成以外にも、段落タイトルだったり、画像の選択や調整、配置、画像の説明・・・とやるべきことは膨大です。編集者との呼吸がどれほど合っているかにも大きく左右され、流れが悪くなった場合はいっそ最初から書き直した方が・・・と思うことも多々ありました。『犬歯の使い方を考える』でも編集を経験しましたが、作り手側に回ると普段気にも留めなかったところや、著者の気苦労を感じさせるところが見えてくるようになりました。


 左の『パーシャルデンチャーの機能と形』は、これまでの臨床ファイルVシリーズやもくあみ会絡みの小冊子が合本化されたものです。作られたのは文筆を熟知された方ですし、既存のスライドからの画像転用もシームレスにできるようにされているでしょうから、私とは比べものにならないスピードで仕上げられたのだろうと思いますが、内容は数回読み返したぐらいでは潜りきれないほどの深さです。もともと1冊にぎゅっと詰めてまとめた小冊子を6冊合本、しかもパーシャルデンチャーに特化しているとなれば、これほどの密度のものは他にはありません。
 文頭のことばに出てくる『生体に順応していくことの大切さ』は、パーシャルデンチャーの得意分野であり、来年度もくあみ会はこれが一つのキーワードになりそうです。
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