2017年1月16日月曜日

神妙の域

 先週の日美は北斎を特集していた。北斎は当時にしては異例の長寿で90歳まで生きたそうだが、それまでに幾度となく名を変え、75歳以降は『画狂老人卍』の号を使っていたと云う(歯狂老人Kなら知っているが・・・)。なんとも考えさせられたのが『富獄百景』の後書きで、『私は6歳より物の形状を写し取る癖があり、50歳の頃から数々の図画を表した。とは言え、70歳までに描いたものは本当に取るに足らぬものばかりである。73歳になってさまざまな生き物や草木の生まれと造りをいくらかは知ることができた。ゆえに、86歳になればますます腕は上達し、90歳ともなると奥義を極め、100歳に至っては正に神妙の域に達するであろう。」と北斎は述べたそうだ。番組ではこの言葉に対し、自信の表れか、はたまた自身への鼓舞かなどといった議論が交わされていたが、「描くことが楽しいという純粋な気持ちではないか」という井浦新の言葉が自分には一番しっくりきた。
 比ぶべくも無い小さな話に過ぎないが、自身の臨床を振り返ってみても取るに足らぬものばかりで、神妙の域には到底辿り着けるはずもないが、もう少し何とかならないものかと思う。大抵のことは通り過ぎた後になって、「ああ、こういうことだったのか」「ああ、まだこんなところに来ただけに過ぎないのか」となる。凡人のサダメと割り切っているので天才を羨むことも無いが、北斎の言葉からすると案外天才も同じように感じているのかもしれない。
 北斎はおよそ200年前を生きた。それから随分文明は進んだようだが、宇宙の歴史からすれば瞬きに過ぎない。恐竜が絶滅したように、いつか人間の築いた歴史がリセットされる日も来るかもしれない。そんな儚い歴史に北斎は名を残したが、きっとそんなことが目的だったわけではなく、純粋に絵師としての人生を楽しんだのだろう。歯医者もそのように楽しみたい。
 ちなみに画像は私が子供の時に習っていた習字の先生の作品で、「遊びで書いたよ」と言いながら持ってきてくださったもの。この人もまた楽しんでいる。

3 件のコメント:

  1. 素晴らしい記事ですね。オンデマンドで見てみます。

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    1. 人の楽しみ方にケチはつけられないと感じた次第です。

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  2. その通りだと思います。

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